相続と生前贈与の違いは?税金の違いと不動産売却に適したケース
相続と生前贈与は、どちらも財産を次の世代へ引き継ぐ方法ですが、それぞれに異なるメリットや税金の仕組みがあります。相続は財産所有者が亡くなった後に適用され、相続税が発生しますが、生前贈与では、財産を生前に贈与し、贈与税が課されます。
特に不動産の生前贈与は、相続税対策として注目される一方、贈与税やその後の売却など、さまざまな要素を考慮する必要があります。
目次
相続と贈与の違いとは?不動産売却の生前贈与
相続と贈与は、財産を他者に引き継ぐ方法としてよく比較されますが、それぞれ異なる仕組みがあります。相続は、財産所有者が亡くなった後に行われるのに対し、贈与は生前に財産を譲渡する方法です。
◇相続と贈与の違い
相続とは、人が死亡した際に、その人の権利や義務を相続人が受け継ぐことを指します。遺言がある場合はその内容に従って、ない場合は法律の規定に基づいて財産が分配されます。
相続においては、相続財産や相続人の調査、遺産分割協議書の作成、相続税の申告など一連の手続きが必要です。また、相続には相続税が課されます。一方、贈与とは、生前に無償で自分の財産を他者に与える行為です。
生前贈与は相続税対策の一環として利用されることも多く、当事者間の合意によって成立します。ただし、書面によらない贈与契約はいつでも取り消すことが可能です(民法550条)。贈与には贈与税が課され、相続とは異なる税制度が適用されます。
◇不動産売却の生前贈与
相続対策の一環として、親が生前に実家や土地などの不動産を子どもに贈与するケースは珍しくありません。この生前贈与は、相続時に発生する相続税の負担を軽減する目的で行われることが多いです。
生前に不動産を贈与することで、贈与税の基礎控除を活用し、分割して贈与することが可能となり、結果的に相続税の課税対象となる財産を減らすことができます。また、生前贈与を計画的に行うことで、相続時における財産分割のトラブルを未然に防ぎ、遺族の間でスムーズな財産移転が実現するという利点もあります。
相続と生前贈与の税金の違い
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相続と生前贈与では、財産を受け取る際の税金に大きな違いがあります。主な税金としては、相続は、財産所有者が亡くなった後に発生する相続税が適用され、生前贈与は、財産が生前に譲渡される際に贈与税が課されます。ここでは、相続と生前贈与の税金の違いについて詳しく解説します。
◇相続でかかる税金
相続税は、相続した預貯金や不動産などの財産の総額に応じて課税される税金です。ただし、遺産の総額が相続税の基礎控除額を超える場合にのみ発生します。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、この範囲内であれば相続税はかかりません。
相続税の申告期限は、相続開始を知った翌日から10か月以内で、申告や納付は被相続人が生前住んでいた場所の税務署で行います。
次に、登録免許税は、相続した不動産の名義変更、つまり「相続登記」を行う際にかかる税金です。不動産の所有権を相続人に移す手続きには、土地や建物のそれぞれに対して不動産価額の0.4%の税率が適用されます。これにより、相続に伴う名義変更にかかるコストをカバーします。
◇生前贈与でかかる税金
贈与税は、贈与された財産の価値から基礎控除額を差し引き、金額に応じた税率を適用して算出します。贈与された財産が土地の場合、評価額は路線価方式や倍率方式を用い、建物の場合は固定資産税評価額で計算します。
基礎控除は暦年贈与で年間110万円、または相続時精算課税制度を利用する場合は2,500万円です。
また、不動産取得税は、贈与によって不動産の名義が変更された際に、新しい名義人に課される地方税です。計算式は基本的に「固定資産税評価額×税率」ですが、都道府県によって異なるため、事前に確認が必要です。
一般的な税率は4%ですが、2008年4月1日から2024年3月31日までの間に取得した居住用の土地や住宅には軽減措置が適用され、税率は3%となっています。
生前贈与においても、不動産の所有権を変更する際の移転登記に登録免許税がかかります。贈与の場合、税率は2%で、固定資産評価額に対して適用されます。一方、相続による場合の登録免許税は税率が0.4%と低く設定されています。
◇相続税と贈与税どちらが高い?
相続税と贈与税のどちらが高くなるかは、一概に税率だけで判断することはできません。同じ金額の財産を一度に引き渡す場合、通常、贈与税のほうが相続税よりも高くなる傾向があります。
しかし、相続税と贈与税の負担を比較する際には、個々の状況や税率、控除額などさまざまな要素を考慮する必要があります。例えば、贈与税には年間110万円の基礎控除があるため、複数回に分けて少額ずつ贈与を繰り返すことで、贈与税の合計額を抑えることが可能です。
このように、生前贈与を計画的に行うことで、結果的に相続よりも税負担を軽減できる場合もあります。そのため、どちらの方法が得かをしっかり検討したうえで、最適な対策を立てることが重要です。
不動産を生前贈与する利点
贈与を行うことで、相続時の財産の分配をあらかじめ決めておけるため、相続時のトラブルを回避しやすくなります。また、計画的に贈与を行うことで、相続税対策にもつながります。
◇贈与がスムーズに行える
生前贈与の大きなメリットのひとつは、不動産を確実かつスムーズに引き継げる点です。生前贈与は、贈与者(財産を贈る人)と受贈者(財産を受け取る人)の双方の合意によって行われるため、特定の相手に確実に財産を贈与することが可能です。このため、贈与者の意向に沿って不動産を単独名義で受け継ぐことができます。
一方、相続の場合、遺言書がない限り、財産は法定相続人の法定相続分に基づいて分配されます。これにより、不動産を特定の相続人が単独で引き継ぐためには、代償分割や他の法定相続人による相続放棄など、相続人間での合意が必要となり、手続きが複雑になることがあります。
したがって、生前贈与を行うことで、遺産分割の手続きを簡略化し、スムーズに不動産を引き継ぐことができるというメリットがあります。
◇収入が引き継げる
生前贈与のメリットのひとつに、不動産から得られる収益を確実に引き継げる点があります。収益物件となっている不動産を生前に贈与された場合、その後の不動産収益はすべて受贈者の収入となります。
例えば、賃貸マンションやアパートから得られる家賃収入も贈与後は受贈者が受け取れるようになるため、贈与を受けることで収入を増やすことが可能です。さらに、不動産からの収益が増えると相続時に現金財産が増加する可能性がありますが、生前贈与を行うことで、その後の不動産収益は相続財産に加算されません。
これにより、相続時に課される税負担を軽減することができます。生前贈与を活用すれば、不動産収益を受贈者に移し、現金財産の増加を抑えるという税制面でのメリットを享受することができます。
生前贈与した不動産を売却したい
生前贈与を受けた不動産を売却する場合、いくつかの重要なポイントを理解しておく必要があります。ここでは、贈与契約書や名義変更など不動産売却前に確認すべき点について解説します。
◇不動産売却に適したケース
不動産を所有するには固定資産税の支払いを含む維持費や管理費がかかります。また、建物がある場合には、その管理や庭の手入れなどの手間も必要です。特に、贈与された不動産の場所が遠方だったり複数あったりする場合、これらの負担が大きくなるため、売却を選択する方が多いです。
相続税の納税資金を用意できない場合も売却が検討されます。相続時精算課税制度を利用して生前贈与を受けた場合、相続時に相続税を精算する必要があり、その際に必要な納税資金が不足する可能性があります。
また、この制度を利用すると土地の評価額を減額できる特例が使えなくなることから、相続税が高くなることもあります。このような場合、早めに不動産を売却して資金を確保するのが有効な選択肢となります。
遺産分割がしにくい場合も不動産の売却が検討されます。不動産は現物を分割するのが難しいため、相続人が複数いる際には公平に分割するために現金化することが必要となることがあります。手持ちの現金での分割が難しい場合、売却して得た現金を分ける方法が選ばれます。
贈与された土地が活用しにくい場合も売却の対象となります。例えば、周囲に人家がない土地や駅から遠い土地など、運用して利益を得ることが難しい不動産の場合、維持・管理の負担を軽減するために売却する方が現実的な場合があります。
◇不動産売却前に確認すべき点
不動産を生前贈与で受けた場合、売却を進める前にいくつかの重要な確認事項があります。
贈与契約は書面で結ぶことが大切です。贈与契約書には「誰が」「誰に」「いつ」「何を」「どのような方法で」贈与するのかを明確に記載します。これにより、後々のトラブルを防ぐための確実な証拠となり、贈与が正式に行われたことを示します。
所有権の移転による名義変更を行う必要があります。不動産を売却できるのはその不動産の正式な所有者のみであるため、生前贈与を受けた不動産がまだ親の名義のままであれば、売却前に贈与を原因とした所有権移転登記を行う必要があります。
住宅ローンの利用状況や残債の有無も確認しましょう。住宅ローンが残っている不動産には、金融機関による抵当権が設定されていることが一般的です。その場合、抵当権設定契約には「不動産の名義変更には金融機関の承諾が必要」という条項が含まれていることがあります。したがって、売却を進める前に金融機関との調整が必要です。
生前贈与を受けた際には、受贈者である子が贈与財産の金額に応じて贈与税を納める義務があります。贈与税の申告を忘れると後々のトラブルにつながる可能性があるため、適切に手続きを行うことが重要です。これらの手続きを確実に行うことで、不動産の売却をスムーズに進めることができます。
相続と贈与は財産を他者に引き継ぐ方法として異なる仕組みがあります。相続では、財産所有者が亡くなった後に相続税が発生し、遺産分割協議や相続登記が必要です。一方、生前贈与では、財産が生前に譲渡され、贈与税が適用されます。 贈与は相続税対策として有効で、財産分割のトラブルを回避しやすくなりますが、贈与税や登録免許税、不動産取得税がかかります。
生前贈与を受けた不動産を売却する際には、固定資産税や管理費などの維持費の負担、相続税精算の資金確保、活用しにくい不動産の売却が適したケースとなります。売却前には名義変更や贈与契約の確認が必要です。